劇団ひとりの新作映画は、伝説の北野武を祝うものです。
スターには誰しも、成功への導き手がいるものだ。劇団ひとりが監督・脚本を務める『浅草キッド』は、1970年代の東京・浅草が舞台。日本のエンタメ界のレジェンドの1人、ビートたけしこと北野武の青春時代を描く。
ビートたけしといえば、芸人だけでなく、俳優・映画監督としても知られている。1986年より地上波で放映され、カルト的なブームとなったバラエティ番組『痛快なりゆき番組 風雲! たけし城』などの司会、映画『バトル・ロワイアル』(2000)ではひと癖ある教師役を演じた。さらに、監督作である映画『HANA-BI』(1997)は、ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞。多岐にわたる活躍は世界的にも知られている。
『浅草キッド』は、1988年に発売されたビートたけしの同名の著書をもとに実写化。駆け出し時代の日々を追う。北野氏と同じく、芸人でありながら俳優、映像監督としても知られる劇団ひとりはこう振り返った。
「2014年から脚本の執筆を始めました。その頃ちょうどたけしさんと一緒に仕事をしていたので『浅草キッド』は映画化しないんですか? と聞いたら『やらねえよ』と言われたんです。まだ手つかずなら、他の人に渡したくない。自分が撮らねば一生後悔すると思いました」
作中でタケシは、“ストリップと笑いの殿堂”と呼ばれた劇場「浅草フランス座」でエレベーターボーイとして働き、やがて大泉洋が演じる幻の浅草芸人・深見千三郎に弟子入り。ここから、お笑い界のスター誕生、彼を導いた師匠、そして栄光への道のりが描かれる。タケシ役を演じるのは、史上最年少でカンヌ映画祭主演男優賞を受賞した柳楽優弥だ。
キュー:セットで一緒に仕事をするのはどうでしたか?
「僕が16歳の時に映画で共演したのが大泉さんとの出会い。その後も何度か現場でご一緒する機会があり、人を惹きつける話し方やオーラ、リズムがある人だと感じました。僕にはそれがないので尊敬してますね。僕と大泉さんの関係は、たけしさんと深見師匠の関係に近いかもしれません。ラストには、タケシと深見師匠が居酒屋でお客さんを笑わせるシーンがあるんです。お客さんを飽きさせないトークをするにはどうするか。しゃべりのテンポ、トーン、リズムのつくり方を大泉さんが教えてくれたおかげで、うまく演じることができました。本当に心強い存在です」(柳楽)
一方の大泉は、柳楽についてどう感じているのだろうか。
「柳楽さんは私の大好きな俳優の1人。シンプルに“うまい”と言ってしまうと失礼なくらい、心からすばらしい俳優です。タケシ役に柳楽さんに決まったと聞いて、すごい作品になるぞと確信しましたね。一緒に撮影していても、表面的なテクニックに頼らず心を掴む演技をしてくれる。彼には感心しきりでした」(大泉)
また、大泉、柳楽ともに撮影に苦労したシーンに、タップダンスの場面を挙げている。
「僕の一番長いタップダンスのシーンは30秒ほど。劇団ひとり監督が好きな長回しでの撮影だったので、少しでもミスがあると全部やり直しなんです。ステージ上でスポットライトを浴びながらタップダンスをする印象的なシーンにするため、ただでさえ緊張しているのに、『失敗しちゃいけない』というプレッシャーも加わって。最も汗をかいたシーンでしたね」(大泉)
「大泉さんの言う通り、最初から最後まで長回しの撮影でした。しかもその中で、タケシのキャラクターを自然な演技で見せないと先に進めない。監督が納得する演技をするために、撮影中はずっと実際のたけしさんのように『バカヤロー』と言い続け、このしぐさ(肩をすくめる)もしていました。他の作品の撮影で『たけしさんはやらないで』と言われるほど、この作品を撮っている間は癖になってました」(柳楽)
最後に、この質問は欠かせないだろう。2人にとって、ビートたけしとはどんな存在だろうか?
「バラエティ番組以外の場所でも強い印象を残してくれる人。10代の頃に、たけしさんが僕のことを『この若さで賞を取りまくると将来が大変だ』と話していたと聞いて。14歳でこの世界でがんばろうと決意したのに、10代にして「この先は厳しい」と突きつけられたようでショックだったんです。でも、だからこそ、この作品のために熱くなれました。10代の頃は厳しい言葉で背中を押してもらい、20代では生き様のかっこよさに憧れ道しるべとして仰ぎ、30歳を目前にした今、彼を演じるチャンスを与えられました」(柳楽)
「ビートたけしさんは、僕らの世代のヒーロー。小学生の頃からお笑いが大好きで、人を笑わせることしか考えていなかった。心の底からお笑いが大好きなんでしょうね。『THE MANZAI』をリアルタイムで見て、『ツービート』にも夢中でした。たけしさんのサクセスストーリーを子どもの頃から見ていた世代なんです。昔、あるテレビ番組のオファーを受けた時、司会がたけしさんだったのでお会いしたい一心で引き受けたんです。初めて直にたけしさんとお会いした感動を今でも覚えています。『わぁ! たけしさんが本当にいる!』って」(大泉)